塗料について
1塗料の変遷
日本では古来から木を保護したり、美観を高める方法として使われてきたものに、堅牢で美しい光沢を放つ漆や、木材に浸透させ保護するために柿渋や桐油などに顔料を加えたものが使われてきました。いわゆるペンキと呼ばれるものは、幕末から明治時代にかけてイギリス産のものが輸入されるようになったといわれています。
さて、近代に使われてきた塗料は、昭和に入って、石油化学技術の発達により開発された合成樹脂塗料で、この合成樹脂の開発も戦後にはアルキド樹脂、アクリル樹脂、更にウレタン、シリコンからフッ素樹脂と高耐久化の開発が進みました。また、顔料や添加剤の発達により、特殊な機能に秀でた、防カビ塗料、抗菌塗料、遮熱塗料など、また質感やデザイン性の要望から意匠性重視の塗料が開発されました。こうした耐久性や機能、意匠性の豊かさで漆や柿渋などと比較し格段に優れた塗料が登場するにつれ、これらの塗料は姿を隠すことになるのです。
2合成樹脂塗料の成分
では、いったいこの塗料とはどのような成分から成り立ち、どのように塗装された対象物を守っているのでしょう。
塗料は対象物に対し塗装工程を経て硬化し塗膜となりますが、まず、この塗料の成分は対象物を保護する成分と、乾燥、硬化するにあたって揮発する成分に分ける事が出来ます。
そして、塗膜成分は
保護機能を司る「合成樹脂」、
塗膜の色彩と艶を司る「顔料」、
塗料が均一な塗膜となる役割や塗膜に特別な機能を持たせるための「添加剤」
の3つの成分から成り立ちます。
揮発する成分は、溶剤系塗料の場合はシンナーと呼ばれる有機溶剤がそれに当たり、水性反応型塗料の場合は水になり樹脂を液状に溶かして塗れるようにするはたらきをします。
3合成樹脂塗料の種類
「お住まいの塗り替え:塗装工程1, 2, 3」のご説明と重なってしまいますが、質問の多い部分なので再度、建築物の外壁塗装や屋根塗装で使用される塗料についてご説明させていただきます。
塗膜の耐久性は、その塗料の保護機能をつかさどる「合成樹脂」により決定され、その種類により下記のように分類及びランク付けされます。
樹脂による分類
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昔からいわゆるペンキと呼ばれる塗料がこれに該当し、ホームセンターで鉄部用や木部用の塗料として販売されるDIY向け塗料といえます。
価格が安いのですが、耐久年数が短いので、現在では屋根はもとより外壁で使用されることは非常に少なくなります。 -
新築時の住宅ではほとんどがこの塗料で塗装されていますが、耐久年数が短いため、塗り替え時の使用頻度は圧倒的に少なくなります。
塗り替えの場合は、店舗など美観を重視し、頻繁に塗り替えることが予想されている場合には、コストパフォーマンスの高い塗料といえます。※最近ではこのアクリル樹脂塗料にラジカル制御などの改良を加ええたものや可塑剤を使用しない純度の高いアクリル樹脂塗料をオーストラリアから輸入したものなども普及し、アクリル樹脂塗料=安価で耐久性の低い塗料という概念はなくなりつつあります。
製品例・ パーフェクトトップ: 日本ペイントアステックペイント
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耐久年数が10年程度ということもあり、つい10年ほど前(2008年現在)では、屋根及び外壁の塗り替え用の高耐久塗料としてもっとも普及していた塗料といえます。ウレタン樹脂塗料の中でも、溶剤型で二液反応型のウレタン樹脂塗料は、あとでご紹介するシリコン樹脂塗料の中でも水性シリコン樹脂塗料や溶剤型の一液型シリコン樹脂塗料よりも耐久性が高く、外装用の使用頻度も高くなります。
製品例・ ファインウレタンU100、一液ファインウレタン、水性ファインウレタン、NAXスペリオ(車両用二液ウレタン): 日本ペイント
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(2008年)現在、耐久性と材料価格の観点から非常にバランスが良いといえ、住宅の屋根、外壁の塗り替え用としてもっとも普及している塗料です。
製品例・ 水性シリコンセラUV、ファインシリコンセラUV、ファインシリコンフレッシュ: 日本ペイント
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建築用の塗料ではもっとも耐久性の高い塗料といえますが、それに伴い価格的にも高い塗料で、頻繁に塗り替えることができない耐久性の要求されるビルや橋梁の塗装に使用されることが多い。
最近では住宅でも使用されることも出てきましたが、木造住宅では10年前後に下地の劣化※が起こることが多いので、この場合、費用と効果の視点から「お勧めです」といえない場合もあります。
※木造で外壁がモルタルやサイディングの場合、フッ素樹脂塗料のように耐久性が15年以上とうたわれている塗料で塗り替えを行ったとしても、必ずしも15年間メンテナンスいらずという訳にはいかず、10年程度でひび割れ(クラック)やシーリングに亀裂ができる場合が多いので、10年に一度、下地処理からのメンテナンスを必要とする場合が多くなります。この場合、価格と品質とのバランスからフッ素樹脂塗料よりもシリコン樹脂塗料の方がお勧めの塗料ということになります。
希釈材による分類
「塗料の成分」でもお話いたしましたように、○○樹脂塗料は希釈材により、水性○○樹脂塗料、溶剤系○○樹脂塗料に分けることができ、溶剤系○○樹脂塗料は一液型○○樹脂塗料、二液方○○樹脂塗料に分類することができます。
例えばシリコン樹脂塗料は、下記のように分類されます。
- 水性シリコン樹脂塗料
- 一液型溶剤シリコン樹脂塗料
- 二液型溶剤シリコン樹脂塗料
水性系、溶剤系、一概に「こちらが良い」とはいいきれず、水性が厚膜でやわらかい塗膜を形成するのに対し、溶剤系は薄膜で硬い塗膜を形成することから、水性は下地に対し柔軟に追従することが長所となりますが、汚れが着きやすいという欠点があります。
また、溶剤系は、水性と比べると汚れも付き難く総合的には耐久性も強いと言えますが、下地の動きに対し追従できず、ひび割れが入りやすいと言う欠点があります。
そして、溶剤系は作業における臭気の問題もあり、住宅地などでは、ご近隣のご理解も必要な場合がありますし、マクロ的な視点から見ますと、地球温暖化など環境問題の視点からは優れた製品とは言い切れません。
その他
さて、上記で記しました塗料の主成分である樹脂の分類により耐久性が決定され、多くの塗料メーカーが差別化による製品開発を行っておりますが、下記でご紹介する塗料は特定のメーカーが独自に開発し製品化されたものや、樹脂以外の特殊顔料や添加剤により機能的に優れた塗料です。
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製品例
・ パラサーモ: 日本特殊塗料
主に屋根の塗り替えに採用される場合が多く、太陽光に対する反射率の優れた着色顔料と、熱放射率に優れたセラミックを採用することで、遮熱性能を高めています。従来の屋根用塗料と比較すると、温度上昇を抑えるとともに室内への熱の侵入を遮断し、室内温度の上昇を抑えることができるので、エアコンなどの空調設備の省エネ効果に性能を発揮します。
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製品例
・ ナノコンポジットW: 水谷ペイント
水谷ペイントと京都工芸繊維大学、科学技術振興機構による産学官連携による独創的ナノテクノロジー技術により、ナノレベルで分散したコロイド状のシリカの分散安定性を飛躍的に向上させたナノコンポジットエマルション(有機・無機ハイブリッドエマルション)を新素材として世界で初めて商業生産に成功し、さらにこのナノコンポジットエマルションを応用展開して高度耐汚染性の特徴を持ち、かつ環境負荷の少ない外壁用塗料として商品化させたものです。
本開発により、外壁用汎用エマルション塗料の弱点であった耐汚染性の大幅向上が達成され、樹脂部をナノ分散シリカに置き換えることで石油系資源低減による地球環境の維持向上へも大きく貢献しています。
(上記各塗料説明はカタログから引用しております。)
以上、塗料の分類についてお話させていただきましたが、どんなに耐久性の強い塗料であっても、どれ程優れた機能を持つ塗料であったとしても、的確な塗装工程を経て、「塗膜」となってはじめてそれらの機能を発揮できます。
住宅の塗り替えの場合、塗料を塗膜にすること、いわゆる塗装工事の原価を10とした場合、塗料の費用は2~3、塗膜にすること(いわゆる施工原価)が、7~8という割合で、多くの場合、施工費の割合が材料費の割合より大きく上回ります。
ゆえに、塗装工事を業者に依頼する場合は、どのような塗料を使用するかを検討すると同様、いや、それ以上に、的確な塗装工程を行う技術力と姿勢があるか否かを見極めることこそがもっとも肝要といえます。
4合成樹脂塗料の課題
石油化学塗料は化学技術の発展により、従来の天然塗料と比較し高耐久、色彩の豊かさなどをもたらし、多くの技術開発に貢献してきました。しかし、その代償として問題に上がってきたのが「地球温暖化」、「シックハウス症候群」や「化学物質過敏症」に代表される「室内環境汚染の問題」になります。しかしながら、現状の塗料によって他の多くの技術が支えられていることもあり、現段階では、普及した合成樹脂塗料自体を真っ向から否定する事は到底出来ません。
今なすべき事は、耐久性や美観を維持しながらも、揮発性有機化合物の低減はもとより、ライフサイクルアセスメント※を基調にして、環境に対する負荷をできる限り軽減した塗料の開発といえるでしょう。
また、その新しい塗料開発如何が今後の業界発展の鍵を握っているといっても過言ではないでしょう。
※LCA(ライフサイクルアセスメント)
環境保全と資源枯渇の回避を目指し、「持続可能な発展」を実現させるための評価手法の一つで、製品の原料調達、生産から消費、そして廃棄に至るすべての段階において、その製品が環境へ与える負荷を総合的に評価する手法のこと。製品の使用や廃棄に伴う有害物質の排出の有無、処理やリサイクルの容易性など、ある特定のプロセスだけにとどまらず、原料採取、製造、流通などの段階での環境への負荷も評価範囲に含まれます。